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大阪地方裁判所 昭和45年(ワ)1315号 判決

原告

寺岡株式会社

右代表者

寺岡成晃

右訴訟代理人

江谷英男

藤村睦美

被告

丸橋産業株式会社

右代表者

丸橋勇司

右訴訟代理人

渡辺昇治

主文

被告は原告に対し金四万七、四三二円とこれに対する昭和四五年三月二七日以降完済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその二を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事紙《省略》

理由

一、被告は訴外下村に対し昭和四五年一月一五日頃金一〇万七、一九二円の買掛金債務があつたことは認めるというのであるが、原告主張の具体的債権発生原因事実のうちのどれを認めたのか必ずしも明らかでないので、全部について判断する。

〈証拠〉を総合すると、昭和四五年一月一五日当時訴外下村が被告に対し原告主張の如き売掛金債権合計金一五万四、六二四円を有していたことを認めることができる。もつとも成立に争いない乙第三号証によると昭和四五年一月一五日当時の被告の訴外下村に対する買掛金債務は金一五万一、〇〇六円となつており、被告代表者本人尋問の結果中にもこれと同旨の部分があるが前掲証拠に照し採用し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二、〈証拠略〉によると、訴外下村が昭和四五年一月一九日右債権を訴外田原良三に対し譲渡し、訴外下村において被告に対し同月二一日付の内容証明郵便でその旨の通知をなし、その頃被告に対し右郵便が送達されたことを認めることができる。証人下村年男の証言によると当時下村は倒産し、債権者である訴外田原良三に対し一度は売掛金回収に関する一切の権限を与え、印鑑等を同人らに預けて本件債権を田原に譲渡しておきながら、後日他の債権者である二階堂等に責められるや、同人らをして田原から自己の印鑑等を取返させてこれらを同人らに預けていた等の事実を認めることができ〔る。〕〈以下証拠判断略〉

三、〈証拠略〉によると訴外田原良三は昭和四五年三月九日に訴外下村から譲受けた金一五万四、六二四円の売掛金債権を原告に譲渡し、同日内容証明郵便で被告に対しその旨の通知をし、翌一〇日右郵便が被告に送達されたことを認めることができる。

四、そこで被告の抗弁について判断する。

〈証拠略〉によると、訴外二階堂実の申請により大阪地方裁判所昭和四五年(ル)第二八二号、同年(ワ)第二九三号事件で、同訴外人が訴外下村に対して有する債権に充てるため、同訴外人が被告に対して持つていた昭和四四年一二月一五日より同四五年一月二〇日までの売掛代金債権金二一万〇、三〇〇円について、昭和四五年二月四日付で差押及び転付命令が出され、その頃右命令は被告に送達されたこと。訴外下村から訴外田原に対してなした前記債権譲渡の通知が被告にあつた数日後である昭和四五年二月二四日付で訴外下村より被告に対し右債権譲渡の通知は訴外田原等が他の目的で預けていた訴外下村の印章を冒用して偽造されたもので、債権譲渡をなした覚えがない旨の通知があつたこと。被告は前記二に記載の如き乙第一号証作成の事情等は全く知らなかつたこと。その後昭和四五年二月二八日にいたり訴外二階堂が訴外下村とともに被告方を訪れ、前記売掛金債権の完済を求め、且つその際訴外下村において前同様訴外下村より訴外田原への債権譲渡がなかつた旨の説明があつたこと。そこで同日被告は被告の帳簿上同日現在の訴外下村への買掛金総債務金一五万一、〇〇六円のうち金一〇万七、一九二円を訴外二階堂に支払い残金四万三、八一四円相当分の商品を訴外下村に返品したこと以上の事実を認めることができ、他にこれを左右するに足る証拠はない。右事実によると、被告より訴外二階堂に対する金一〇万七、一九二円の弁済は善意で債権の準占有者に対してなされたものと認められ、且被告に過失があつたとも認め難いので実質上存在しない無効な債権差押及び転付命令に基づくものであつても弁済としての効力を有するものと解するのが相当である。

五、以上のとおりであるとすると、原告の被告に対する本訴請求は、原告が譲渡を受けた売掛金債権合計金一五万四六二四円のうち前項の金一〇万七、一九二円を控除した金四万七、四三二円とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四五年三月二七日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。 (西池季彦)

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